ここでは症状(発熱、けいれん)のポイントを説明します。 脳炎、髄膜炎については早期発見が重要ですので「だれでもDr.」の解説をわかやすく補足、実際の現場で役立つようにまとめてみました。
発熱と脳炎・髄膜炎
チェックポイント
発熱で一番心配なことは、今の高熱が「脳炎や髄膜炎ではないか?」あるいは「脳炎や髄膜炎になってしまうのではないか?」ということだと思います。髄膜炎・脳炎の初期は経験豊かな医師でも診断が難しく見落とすことが少なくありません。次のような状況があれば疑わしいので、直ちに受診し検査を受けてください。
| 1 | 突然の高熱(多くは40℃以上)で顔色が悪く、何となく元気がない。 | 
|---|---|
| 2 | だらだらと1-2日発熱していたが、次第に高熱になりあまりうごかなくなっている。 | 
| 3 | 発熱1~2日は元気だったが、しだいにトロンとして呼びかけに対する反応が別人のよう。 | 
| 4 | 発熱の経過中24時間以降もけいれんが出現、もしくは繰り返す。 | 
| 5 | 発熱と同時に体をえびのようにそらしたり、甲高い泣き声をあげる。 | 
| 6 | 発熱だけでなく意識状態や言動がいつもとはことなっている。 | 
| 7 | 発熱とともに嘔吐、嘔気がある。 | 
| 8 | 高熱が下がることなく続くとき。 | 
| 9 | 普段よくみている人(母親等)の”何かおかしい”という感覚がある時。 | 
1~2 は細菌性髄膜炎とすればかなり早期の段階、診断がとても難しい。多くは菌血症・肺炎・腎盂炎・アデノウイルス、インフルエンザウイルス感染などの初期。血液検査・髄液検査をすることによってのみ髄膜炎の診断が確定します。
3~6は細菌性髄膜炎・脳炎・脳症の可能性が高く、髄膜炎症状が少し進んできた病態。
4について、発熱24時間以内のけいれんで元気が良い場合、ほとんどが熱性けいれんです。24時間以降のけいれんでは、熱性けいれんは考えにくくなり脳炎・脳症を考慮することになります。
7~8は感染性胃腸炎、RS感染症、特発性発疹、肺炎、菌血症、川崎病等他の疾患の方が疑わしい。
9はすべての疾患にあてはまりそうですが時に髄膜炎・脳炎等の初期のことがあるので、その訴えは軽視できない。髄髄膜炎、脳炎等重症な細菌感染症では 2~3時間様子をみてもケロッと元気 になることがありません。母親の”いつもとは違って変だ”という感覚があたっていることがあります。その不安を医師にしっかりと伝えてください。
意識レベルの表現 ***世界的にはGCSが使用されています。便宜的に開眼状況の把握だけでも十分役に立ちます。
視線→呼びかけ→つねる (目をみて呼びかけつねってみる)

※40℃前後の突然の高熱はすでに肺炎球菌性肺炎・菌血症・髄膜炎になっていることがあります。
                  この場合は受診時直ちに検査を受けると診断が決定、治療が迅速に開始できます。
                  結果として肺炎・菌血症・髄膜炎でも重症化することなく短期間で治癒可能です。診察だけで必要な検査結果が得られない場合、的確な診断を下すのは難しいと考えています。 
次のような状況(①~③すべてに該当)では、検査の後、抗生物質の点滴が必須と考えています。
| ① | 39℃以上の発熱 | 
|---|---|
| ② | 3ヶ月から3歳の年齢 | 
| ③ | 白血球数 15,000以上 | 
※このように迅速な対応をすることによって細菌性髄膜炎、肺炎球菌性肺炎、菌血症等の重症感染症を見逃すことなく、早期に診断治療することができます。診察だけで検査確認がないとせっかく受診したのに(最初に医者にかかったとき)細菌性髄膜炎の初期症状はきづかれず、病状が進行してしまい治療にてこずり結果として後遺症に苦しむことになってしまいます。
                  激しい悪寒戦慄がある場合は菌血症の可能性が高くなります。

髄膜炎の検査の進め方

※最近では診療所の外来での髄液検査が、脳ヘルニア・検査後後遺症(2日程度歩けなくなることあり)の問題や細菌培養の設備がない等の理由で実施困難になっており、髄膜炎が疑わしい場合は当院でも直ちに病院紹介としています。
| 細菌性髄膜炎の好発年齢 | 発生数 | 後遺症 | 死亡率 | 
|---|---|---|---|
| 全国で約600人 | 30% | 5~20% | |
| 0~2才 | 原因菌 1インフルエンザ菌(60%)2肺炎球菌(20%)3髄膜炎菌等 | ||
参考
発熱のメカニズム・体温調節のしくみ

脳炎・脳症の原因 原因菌が特定できない場合が少なくない。
脳炎・脳症の原因疾患 1 インフルエンザ 2 突発性発疹 3 ロタウイルスによるウイルス性胃腸炎 4 流行性耳下腺炎 5 マイコプラズマ
けいれんと脳炎・髄膜炎
チェックポイント
こどものけいれんは母親もしくは家族を悩ませる大きな問題ですが、次のことを理解していれば冷静に対応することができると考えています。
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                  ①脳炎もしくは髄膜炎を考慮しなければならないけいれん(これらは複雑性熱性けいれんの範疇内、その中に脳炎・髄膜炎が紛れ込む確率が高くなる)
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                      ・けいれんの時間が長い(10分以上)(重積型)もしくは短時間にくりかえす(集積型)。
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                      ・けいれんがおさまっても1時間以上意識がもどらない。
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                      ・けいれんがおさまっても様子が普段と異なっている。
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                      ・けいれんがおさまっているのに変な泣き声(嬌声)をあげたり、変な姿勢
(えび反りもしくは手足のつっぱた体位)をとっている。 - 
                      ・けいれん後1時間以上たっても”何となくおかしい”。
 
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                  ②てんかんによるけいれん
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                      ・発熱していない。
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                      ・特徴的な頭や四肢の動きがみられる。
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                      ・痙攣がすぐ止まらず、時間が長いことが多い。
 
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①②にあてはまるときは直ちに病院受診、救急車を呼ぶ前に病院に到着できる場合は自分たちで搬送可能です。けいれんをおこしていてもそのまま死亡につながることはほとんどないので、あわてることはありません。(ただし30分以上続く時はできるだけ早くけいれんを止めた方が良い)。
                
                ①②に該当しない場合は「だれでもDr.」の指示のとおり家で看護が可能です。極論すれば何もできなくてもけいれんがとまるまでの間、みまもるだけで十分です。けいれんが止まってから体温を測定したりけいれんの様子を整理してください。





発熱に伴うけいれんの大多数は熱性けいれん、脳炎髄膜炎はほんのわずかな頻度で、実際にはめぐりあう場面は多くの母親にとってほとんどないと考えてよいかと思います。そうした状況に直面しても、上記の脳炎髄膜炎の兆候をみのがさなければ不安をひきずることはありません。疑しい症状があれば躊躇することなく医療機関を受診、適切な検査を積極的に受けるようにしてください。早期に対処が可能で後遺症なく治すことができると考えています。

